kiitokがハイクラスエンジニアにオススメしたい企業を紹介する「kiitokレビュー」
今回は、製造業に向けた異常検知のAIソフトウェアを展開する「Adacotech」(以下アダコテック)を紹介します。
アダコテックは国の研究機関である国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)の特許技術を用いて、より早くかつ効率的に異常を検知できるソフトウェアを開発しており、現在はソフトウェアのクラウドサービス化/SaaS化に注力しています。
国産の機械学習技術で、日本の製造業の再構築を目指すAIベンチャーであるアダコテックの事業と開発体制、開発文化、ポジションや成長機会について解説していきます。
今回お話を伺ったのは

株式会社アダコテック
取締役
伊藤 桂一さん
東邦大学理学研究科情報科学専攻(指導教官が産総研に勤めていた縁で、産総研にて修士論文を作成)卒業後、産総研認定ベンチャーに勤務。(半導体設計ツールのパラメータ最適化とかやっていました。)アダコテックの創業メンバー

株式会社アダコテック
テックリード
柿崎貴也さん
名古屋大学工学部 電気電子・情報工学科卒。ヤマハ株式会社で10年間組込みエンジニアに従事。株式会社アカツキでテックリードとしてビッグタイトルの開発を牽引。2019年11月にアダコテックに入社
今回インタビューに答えて頂いたのはエンジニアで取締役の伊藤さんとテックリードの柿崎さんです。
インタビューはkiitok運営の株式会社トラックレコードCTOの上原が担当しました。
まずは会社とプロダクトについて紹介
会社の歴史とプロダクト、実績や今後の展開などについて紹介していきます。
株式会社アダコテック
売上:非公開
社員数:15名
所在地:東京都千代田区神田小川町3-28-5 axle御茶ノ水302
URL:https://adacotech.co.jp/
2012年創業の製造業AIスタートアップ

アダコテックが提供しているのは、自動車などの工場の検査・検品のAIソリューションです。同領域のAI企業は他にもありますが、アダコテックのユニークネスは、産総研にて発明された技術を活用し、正常データのみを学習し、その正常データから外れたものを検知する仕組みをとっています。深層学習と比べて、シンプルな手法である事によって、少ないデータ、軽い計算量で実行できています。
PoCで終わることも少なくないAI業界にて、安全の水準レベルが非常に高度な自動車部品Tier1メーカーの工場のラインに導入されていることからも技術的に高く評価されていると言えます。
日本を代表する企業へのサービス提供

人材不足、人為的ミスが生まれる検査の社会的課題

品質の高い製品を生み出すにあたり、検査は非常に重要なファクターです。一方で「検査」を取り巻く社会的課題は非常に根深い問題です。
まず工場従事者の5人に1人が検査に関わる仕事をしており、今時点で約140万人と非常に多くの方がその役割を担っています。一方で、少子高齢化などの問題に加えて、正しい検査を実施する上での熟練度も必要であるため「人が少ない」、「育成も大変」という観点からも構造的な人材不足に陥ってます。
また人が作業するために、人為的ミスをゼロにすることは難しく、近年では複数の不適切検査のニュースが報道されている現状もあります。
このように日本を代表する産業「製造業」の命綱とも言える検査・検品工程で、人材面での課題が浮き彫りになっています。
検査市場は成長市場かつ余白も巨大

この社会的背景もあり、アダコテックが着目する製造業の検査市場は非常にポテンシャルの高い市場です。すでに検査装置が拡がっている半導体市場では、半導体全体の約42兆円市場ありますが、検査装置単体でも3500億円の市場があります。
自動車部品の検査装置市場は現在は30億円と相対的に小さい市場ですが、ここ5年で400%超と急成長しています。その背景には、これまで非常に複雑であった業界で技術的な難易度が背景にあります。自動車部品の市場全体は約50兆円あります(半導体市場を上回る規模)。
今後さらなる技術革新により、加速度的に市場が大きくなることで、半導体の検査市場同等の市場規模にまで拡大することも考えられるなど、ポテンシャルが大きく、成長が期待できる市場と言えます。
↓検査の抱える社会課題とサービス紹介動画↓
国の研究機関「産総研」の特許を活用

アダコテックのソリューションを支えるコアな技術は、国立の研究開発機関である産総研の特許技術「高次局所自己相関(HLAC)特徴抽出法」と多変量解析手法を組み合わせた学習型異常検知技術にあり、主な特長は以下3点です。
- 不良データ不要
深層学習と比較して、少量の正常データのみ(教師無し)で異常検出モデルを学習生成できる。 - GPU不要
計算処理が軽いため、汎用PCでも高速に動かすことができる。 - ブラックボックス化しない
HLAC特徴を線形処理しているため、計算過程や結果の説明が容易。
そこで、この「大量のデータが不要」であることや「計算処理の軽さ」などの利点を活かして、開発されているのがAI検査ソリューションのSaaS化です。
↓ディープラーニング系AIとのアダコテックの技術の違い↓

AIの社会実装を増やすためにSaaS化

製造業などにおけるAIソリューションをクラウド化/SaaS化する例はあまり耳にしたことがありません。このような取り組みを開始する理由の一つが、AIの社会実装を増やしていくことにあります。
製造ラインなどの安全性などにより慎重な判断が求められる領域においては丁寧なPoCを経て、そこでの結果を受けて実装に至ります。しかしながらPoCを実施するには、データに関する専門性が求められるため、人材リソースがボトルネックになります。
そこで、そのPoCに必要なリソースを専門人材に依存せずに実行できる環境をプロダクトとして実装しています。
これによって、顧客企業の社員、もしくは専門性が高くない人材でもPoCに対応できることで、PoC自体の実施件数を増やし、結果的に社会実装される絶対数を増やすことに繋がります。
もちろん、システムやアルゴリズムのアップデートの一元対応により常に最新のクオリティのプロダクトにアクセスできるといったこともSaaS化の背景にあります。
誰でも使えるAIのソフトウェアを目指す

アダコテックの今後のシナリオは、短期的には検査AIのSaaS化です。これによって専門性の高い人材に依存せずに、PoCを実行できる体制を構築していきます。
次に、オートマシンラーニングにより、チューニング精度を自動的に向上できるような環境構築を目指しています。また工場での検査結果をクラウドで連結することによって、学習速度をさらに加速させることも視野にいれています。
もちろん製造業の検査領域は国内市場に留まらないので、グローバル展開も視野に入れていきます。
review

kiitok
上原
アダコテックは、Top Tierのメーカーに複数導入されるだけの、精度高く結果を出せる独自の技術をもっている点に強さを感じました。
またそのような技術的優位性を確立しつつ、AIのSaaS化というこれまでにないプロダクトで製造業という巨大な市場にチャレンジしているというのは非常に魅力的です。

アダコテック
伊藤さん
またAIソフトウェアのSaaS化についても「誰でも扱える」ことと「性能の良さ」のバランスを維持しながら開発することは難しさでもあり、面白みであると感じています。
次はプロダクトをつくっている開発チームを紹介
開発体制、開発文化や今後のチャレンジなどについて紹介していきます。
開発体制と技術スタック

開発チームは大きくプロダクトとAIの2つにわかれています。
プロダクトは、現在クローズドβのクラウドアプリケーション開発と、既存のスタンドアロンなWindowアプリケーションを開発するエッジアプリ開発の2つあります。
AIは、顧客のデータを預かりPoCを行うデータ分析チーム、精度向上など新たなアルゴリズムの研究開発を行うR&Dチーム、アルゴリズムを実プロダクトとしてのパフォーマンスに耐えられるよう最適化したり、汎用のライブラリ開発を行うアルゴリズム開発チームの3つにわかれています。
- サーバーサイドはPython (Django)をメインに利用、ハイパーパラメータ最適化のための並列実行処理などで一部Goも利用している
- フロントエンドはTypeScript + Nuxt.js
- インフラはAWSのECS Fargateを利用
- アルゴリズム開発は、パフォーマンスが求められる部分はC++、汎用処理はPythonを利用している
開発フロー

技術的負債に対する取り組みも積極的に行っており、もともと.NETベースで開発していたもののリプレースもほぼ完了している点や、モダンな技術スタックの選定や、妥協せずベストな解を追求する姿勢が好印象です。
開発スタイル: Zenhubを利用した2週間スプリントのスクラム開発
テスト実施: サーバーサイドを中心に徐々に対応中
CI/CD環境: GitHub ActionsをメインとしたCIと、CodeDeployを利用したCD環境が整備
コードレビュー: reviewdogのようなツールを導入しつつ、今後メンバー間のレビューも強化していきたい
企画決定フロー: 3ヶ月スパンで社員全員で集まって議論
技術的負債対応: クローズドβリリースまではスピード優先ではあったが、現在はWindowsアセットのリプレースなどもほぼ完了した
チャレンジを許容し、ベストを追求する開発文化

まだまだ人数も少なく、開発チーム特有の文化や仕組みなどはこれからつくっていくフェーズです。
その上でこれまでの技術的なチャレンジを振り返ったときに、ベストを模索する文化であることが特徴的な部分です。
サーバーサイドのチャレンジ
例えば、AIアルゴリズムを実プロダクトに適用する上でのパフォーマンスは非常に重要ですが、様々な低レイヤー含む様々なチューニングを行っています。
例えばSIMD命令などを利用した高速化ロジックにより、100fpsの映像をリアルタイムに解析しながら正常モデルの更新もリアルタイムに行いますが、1つのPCで4カメラを同時に分析し、1秒間に400枚のデータを解析検査しながら更新を可能にしています。
また、もともと.NET Coreを利用したハイパーパラメータ自動最適化ロジックにおいて、並列化したときのプロセスごとの処理時間のばらつきが課題でしたが、最終的にGoを利用して平均40%の計算コスト減少を実現するなどしています。
アルゴリズムのチャレンジ
実運用においてはPoCでは想定し得ないような問題も多く発生します。そのような問題が発生した際にも、伊藤さんの過去14年に渡るノウハウの蓄積などを元に、変動に対しいかにロバストな手法に仕組みを変えていけるか取り組んでいます。
↓チームでの議論風景↓

働く仲間を理解し、受け入れる文化

アダコテックの「相手を許容する文化」も特徴的です。シニアなメンバーが多いアダコテックですが、これまでの価値観や固定観念にとらわれずに「相手を理解する」ことを重視しています。
例えば、オフサイトミーティングではお互いを理解することに時間をとっています。お互いの好き・嫌いの価値観を理解することや、ストレングスファインダーでお互いの強みを把握するなどの取り組みをとっています。
また、強みだけではなく、Netflixでも使われている。相互フィードバック 「Start=はじめてほしいこと1つ、Stop=やめてほしいこと1つ、 Continue=継続してほしいこと1つ」 など双方の成長のために必要なフィードバックなども実施しています。
ハードシングスがつきもののスタートアップでは、お互いの信頼関係が重要です。そのための素地となる相手を理解し、相手を尊重し、許容する、そのような文化が根付いている点は魅力的です。
アダコテックのオフサイトの様子はこちら
↓オフサイトの様子↓

review

kiitok
上原

アダコテック
柿崎さん
また、まだまだ人数が少ない会社で、やる気があれば何でもチャレンジができる環境です。
他にも、子育てなどのライフバランスを適切に維持できる環境である点も安心材料と言えます。
最後に、今もとめるポジションと成長機会を紹介
記載時点(20年6月)で募集中のポジションと期待値やそこで得られる機会について
いま求めているポジション

フロントエンドエンジニアには、現在クローズドβで開発しているクラウドアプリケーションのフロントエンド開発のリードの役割が期待されています。
検査AIのWebサービス化という、普通のWebサービスとは異なった領域でのチャレンジとなるので、これまでとは違う、新しいサービスや体験を作りたくなってきた人には向いています。
データアナリスト (機械学習エンジニア)には、機械学習を用いた画像検査プロダクトのデータ分析業務や画像だけではなく、動画・音声など、多チャンネルセンサデータの分析などの役割が期待されています。現状では、データを渡した上で、自走できるレベルの方で、インターンを含むチームメンバーのサポートなども任せられる方が求められています。
世界でも正解のないUX開発の挑戦

検査AIのWebサービス化という、これまでに例を見ないプロダクト開発に関わることができる点が魅力です。まだ正解例がないからこそ、いかに顧客にとって直感的に使いやすいUI/UXを実現していくかというプロダクト開発観点でのチャレンジとなります。
またまだクローズドβの段階ではあり、0→1に近い状態といえます。そのため技術選定においても裁量を持って開発をリードできるという技術観点でのチャレンジができる点も魅力的です。
フロントエンドエンジニアとして、自ら技術環境を選定し、新しいユーザー体験をつくりだすことは非常に魅力的な環境と言えます。
また、機械学習エンジニアとしては、DeepLearningが引き続き注目度が高い領域ですが、PoCで終わってしまい社会実装に至らない経験をしている人は少なくないかと思います。
アダコテックの場合では、AIを利用したプロダクトでバリューを出せる経験が得られることが魅力的です。
またオートマシンラーニング分野にもさらに注力していく方針もあり、エンジニアの技術力でダイレクトに事業に貢献できます。
一緒に働きたい人は

開発チームの文化にもなりつつある、妥協せずベストな解を追求できるスタンスや、難易度の高い課題を面白がれる姿勢をもっている方は相性が良さそうです。
またスキルレベルとしては、即戦力として自走できるレベルの方を求めています。
↓アダコテックのオフィス風景↓

屋上のテラスが気持ちよさそう。3密を避けた議論もできそう

執務スペースの雰囲気
review

kiitok
上原
それに加えてバックエンドエンジニアとして非常に優秀な柿崎さんや、機械学習領域の経験豊富な伊藤さんなどシニアなエンジニアに囲まれている点はエンジニアの成長環境としても非常に魅力的です。

アダコテック
伊藤さん
そういった中で国産の技術を元に、AIという切り口で製造業を再復興していけることの社会的意義もあり非常に魅力的と感じています。
他にもこんなことを聞きました。
質問の一例
- 取組事例の話
- 技術的課題の話
- 今後の事業展開の話
などなど。「もうちょっと話を聞いてみたい」と思った方は、kiitokに登録を。kiitok担当アドバイザーが記事では紹介していない情報も含めてご紹介します。
kiitok review インタビュアー

株式会社トラックレコード CTO
上原 将之
京都大学経済学部卒業後、2010年にDeNAに入社。エブリスタ、MYCODE、歩いてオトク、AI創薬プロジェクトなど、様々な新規サービスの立ち上げや開発・運用に携わる。 サーバー、クライアント、iOS・Android、機械学習等、幅広い技術スタックでの開発を経験する。 その後フリーランスエンジニアを経て、kiitokを運営する株式会社トラックレコードを創業。