
2025年までのエンジニア生存戦略。Preferrd Networks、ラクスル、SMSが語る変化を捉えるためのマインドと技術
オンプレミスからクラウドへの移行、SaaSの勃興、開発のグローバル化。目まぐるしい変化のなかエンジニアに求められる役割はどう変化していくのでしょうか。
2020年2月1日に開かれた、キャリアアップを考えるエンジニアのためのカンファレンス「Career Market Vol.1」。最後のセッションとなった「2025年までのエンジニア生存戦略」にはエス・エム・エスのたなべすなおさんと、Preferrd Networksの高木 悠造さん、ラクスルの水島壮太さんが登壇。たなべさんの進行のもと、採用市場におけるエンジニアの生存戦略を紐解きます。
本記事はkiitok Career Marketのレポート記事Vol.4となります
Vol.1 「エンジニアの成長機会は“良いヤツ”に集まる」DMM、ミクシィ、キャディ、Reproのエンジニアが語るキャリア資産の積み方
Vol.2 「言われたものをただ作る」は絶対にやらない文化。プレイド、エクサウィザーズ、ビザスク、サイバーエージェントが語る採用と開発の現場の本音
Vol.3 転職したい時ほど、まず目を向けるべきは「社内の選択肢」。ヤプリ、ラクスル、LINE GT、インフキュリオンデジタルの第一線エンジニアが語る、キャリアの歩み方
【登壇者プロフィール】
たなべすなお:株式会社エス・エム・エス 技術責任者
外資生保のSEからアジャイルとRuby に出会い、Webでサービスをつくり育てるキャリアを歩む。2011年9月DeNAへ入社。開発環境整備や技術支援を担うチームの立上げ、新規サービス開発を支える。後半はSET/SWET として自動化や開発者テストに取り組む。2015年2月に株式会社エス・エム・エスへ入社。技術責任者として開発組織の構築や開発基盤の整備をリード。ビジネスモデルの構築が得意な事業会社に技術を新しい武器として加える活動をしている。水島 壮太:ラクスル株式会社 執行役員CPO
学生時代はベンチャー企業の契約社員としてJavaアプリの開発に没頭。新卒で日本IBMに入社し、Javaアーキテクトとしてキャリアを積んだ後、DeNAに転職。Mobageオープンプラットフォームのサードパーティ向けグローバル技術コンサルティング部門の立ち上げを行う。その後、開発部門へ。Mobageに限らず社内外すべてのサービスで共通に利用されるバックエンドサービスを開発、展開。 2015年4月より、株式会社ペロリに出向。MERYのアプリの立ち上げおよびメディアからサービスへ飛躍するための開発をリード。2017年10月より、ラクスル株式会社で執行役員CPO兼ラクスル事業のプロダクトオーナーとして開発の指揮をしている。高木 悠造:株式会社Preferred Networks 事業開発兼製品サービス開発担当
大学院で宇宙線生成過程の数値シミュレーションの研究の後、富士通にて京コンピュータの研究開発を行う。その後、DeNAでデータサイエンティストとゲームデザイナーとして7本の新規ゲームの立ち上げとBI環境の整備を行う。 複数のスタートアップと協業、プロダクトマネージャーに従事。投資ファンドやエムスリーで医療AIビジネスの事業責任者を務めた後、現在はPreferred Networksで事業開発と製品サービス開発を兼務している。
たなべ:このセッションでは、採用市場におけるエンジニアの需要の変化、それらを踏まえた生存戦略、新たなキャリアの可能性について考えていきます。初めに会場の皆さんがどのようなトピックに関心があるのか聞いてみましょう。
過去5年で起きている市場トレンドの変化について知りたい人?——3割ぐらいですね。
市場の変化を踏まえて需要が減るエンジニアについて?——半分ぐらいいらっしゃいますね。
今後の求人ニーズの変化。グローバルやメガベンチャー、スタートアップなどの求人ニーズとその背景が知りたい人?——多いですね。7割ぐらいかな。
サーバーサイドエンジニアやフロントエンドエンジニア、アプリエンジニア、機械学習エンジニアなど、職種ごとの今後について?——少ないですね。1割ぐらいでしょうか?
エンジニアとして生き残るために、大事な経験とは何かを聞きたい人?——少ないですね。みなさん、具体的な話を聞きたい感じかな。
これで最後です。5年後も求められるエンジニアの姿を知りたい人?——なるほど。あまり多くないですね(笑)
SaaSの成熟で「深い業界知識のラーニング力」がマストに
たなべ:では過去5年で起きている市場トレンドの変化から話していきましょうか。
高木:5年前というとクラウドへの移行もまだ進んでいなかったですよね。
水島:そうですね。この5、6年で完全にオンプレミスからクラウドへのシフトが進みました。5年前からすでにAWSがあって、その後にGCPが台頭してきた。
高木:laaSなどの概念も出てきましたよね。10年前ならインフラエンジニアがサーバーを買って、サーバーラックに突っ込んで、シェルスクリプトのマニュアルを読んで、やっとインフラが構築できた。それが今はTerraformのようなツール上で素早く行える。
色んな仕事がソフトウェアに埋め込まれて、ソフトウェアエンジニアの担う領域が増えたのは大きな変化ですよね。
高木 悠造さん(Preferred Networks)
水島:僕も2015年くらいからIaaSやBasSには注目していました。FirebaseやFacebookが買収したParseなどですね。当時サーバーエンジニアがいらなくなるのでは?という議論もあって、チームメンバーから「この先どうしたらいいんでしょう」と相談を受けた記憶があります。
もう一つ、この5年を振り返ると、ちょっとしたスタートアップブームだった気がします。VCのスタートアップ投資額が増えて、小さいけれど影響力のあるスタートアップが登場した。
当時エンジニアが活躍できるスタートアップというとグリーやDeNA、ミクシィ辺りが主流だったと思うんです。そこからメルカリを筆頭にグッと活躍できる場が増えたと感じています。
水島 壮太さん(ラクスル)
たなべ:クラウドへのシフト、スタートアップブームに加えて、SaaSの盛り上がりも外せないと思います。SmartHRも勢いがありますし、Reproのようなビジネスモデルも増えてきました。
お二人はSaaSのトレンドについてどう考えていますか?
高木:SaaSは伸びていくと思っています。ただし、どの業界、職種でも使えるオープンなSaaSが成り立つ領域は少ないと考えています。
とくに今後は大企業向けのエンタープライズが、ますますオンプレミスからクラウドに移行していくでしょう。各企業のニーズやノウハウをしっかり吸収した、プライベートなSaaSが台頭すると予想しています。
その辺りの話は、ぜひラクスルの水島さんに聞いてみたいです。
水島:おっしゃる通り、BtoB系のSaaSのなかでもHorizontal SaaSはレッドオーシャン化している印象です。特定の業界に特化したVartical SaaSや業界特化型のマーケットプレイスが成長すると思います。
並行して、開発のやり方も変わっていくと考えています。VCがHorizontal SaaSに赤字を掘ってでも投資してスピーディに開発をする代わりに、大企業と組んでじっくりと開発していくような形が主流になる。
そこで必要になるのは、業界知識をきっちりラーニングし、深い思考を重ねられるエンジニアです。ユーザーと企業をつなぐSoE(Systems of Engagement)をアジャイルで実現できるエンジニアは、これから絶対に重宝されると思っています。
市場のトレンドを読み、キャリア選択に活かすには?
たなべ:ちょうどこの5年間にお二人とも転職されていますよね。転職を検討されるときに市場のトレンドって意識されていましたか?
水島:僕は明確に意識していましたね。DeNAからラクスルに転職したのは2017年頃で、ちょうどPdMという職種に注目が集まっていたんです。
DeNAでPdMを経験していて、ある程度成果を出せた手応えがあったので、PdMとしてより経験を積めるポジションを狙って転職しました。
最近はGAFAも「テクニカルプロダクトマネージャー」という、エンジニア出身のPdMの求人を多く出しています。今後も需要は伸びていくんじゃないかと期待しています。
たなべ:なるほど。高木さんはいかがですか?
高木:僕も市場のトレンドは意識していますね。5年以上前ですが、2012年に「Googleの猫」が話題になってから機械学習に注目し、どのように携わるかを考えていました。
機械学習のトレンドを追っている限り、最も先に導入が進むのはヘルスケア業界だと思ったので、DeNAを辞めた後、エムスリーで医療AIビジネスの事業責任者として働きました。今のPreferred Networksでも近しい業界に携わっています。
(注)Googleの猫…Googleが2012年に発表した研究。ディープラーニングを用いて、YouTube動画からランダムに選んだ画像をAIに学習させ、猫が写っているか画像を判断させることに成功した。
たなべ:お二人とも割としっかり狙っていたんですね。ちなみに僕も5年前に転職をしているのですが、市場トレンドはあまり考えていませんでした。
ただ「サーバーサイドだけだと生き残れないかもしれない」という不安はあって。転職してからは開発組織づくりに注力するなど、第二の軸となるスキルを身につけるよう意識してきました。
トレンドを意識するというよりは、すでに持っているスキルのなかで、流れに合うものをどう伸ばすかを考えてきたように思います。
たなべすなおさん(エス・エム・エス)
“仕様書通りに書くだけのエンジニア”は需要が減る
たなべ:では市場トレンドの話はこの辺りにして。ここからは変化を踏まえ、今後どのようなエンジニアの需要が増えるのか、あるいは減っていくかについて考えていきましょう。
水島さんは、先ほどSoE(Systems of Engagement)が重宝されるとおっしゃっていましたね。
水島:そうですね。逆に国内では開発のグローバル化が進み、SoR(System of Record)の開発しかできないエンジニアの需要は減っていくと思っています。世界にはSoRの開発ができるエンジニアが沢山いるので、国内の日本人エンジニアだけに頼る必要はありませんから。実際にラクスルでもオフショアでベトナム人エンジニアたちとSoRの開発を進めてきました。
また、最近はYappliのように簡単にアプリを開発できるプラットフォームも登場しています。プラットフォームに代替されるレベルの技術しか持っていなければ、先行きは厳しくなっていくでしょうね。
たなべ:高木さんはいかがですか?
高木:僕はキャリアの掛け算のできないエンジニアの需要は、減っていくと考えています。
例えば、弊社は機械学習をやっていますが、それ一本で勝負するとなると競争も激しく、生き残るのは難しい。なので、ケミストリーやバイオインフォマティクスなど、他の専門性を掛け合わせた事業を展開している。
当然、そうした事業に携わるエンジニア個人にも、機械学習の技術だけでなく別の専門性が求められます。弊社だと、それがないと仕事にならないと言っても良い。
なので、僕自身も「エンジニア」と「ビジネス開発」の掛け算を意識しています。事業も個人も、一本槍の勝負は本物の天才、トップ以外は難しくなっていくのかなと思います。
あとは、求められる人柄も変わってきていると感じます。10年前は「わがままだけど、エンジニアリングができる人」のニーズはあった気がするけれど、徐々に減っている。要望をきちんと聞いて、プロダクトに反映させられる理解力や柔軟さが求められている印象です。
言語のトレンド左右されないエンジニアに必要な“目的思考”
水島:とはいえ、色んな企業でエンジニアの人手が足りていないのは間違いないですよね(笑)
さっきCOBOLの求人を調べたんですけれど、時給2500円で100件ぐらい求人があるんですよね。なので30年前ぐらいの技術スタックがあれば仕事はあります。
ただし一時は社会を担っていたかもしれないけれど、サンセットに向かっていくようなシステムのメンテナンスが主です。とても重要な仕事ですが、新しい技術に挑戦してスキルアップしたい、キャリアアップしたいなら物足りないでしょうね。
たなべ:そうですね。ちょうどCOBOLの話が挙がったので、言語のトレンドとエンジニアの需要についても話してみたいです。
COBOLだと需要はあっても、レガシーなシステムのメンテナンスなどに仕事内容が限られるというお話でした。いずれはJavaやPHPなども同じ道を辿るのでしょうか?
高木:5年スパンでは無くならないと思います。ただ、30年単位で見ると同じ道を辿る可能性は高いでしょうね。
それこそ経済産業省が、既存の基幹システムの問題点とデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)の必要性を説いた「2025年の崖」を発表していましたよね。
その崖を飛び越えた世界で、Javaは今のCOBOLのようになっている。もし越えられなかったら、Javaはまだ勢力を保っていると思います。そうなってほしくないような気もしますが(笑)
(注)2025年の崖...デジタル・トランスフォーメーションに向けた課題を克服できない場合、2025年以降、最大12兆円/年の経済損失が生じる可能性を指摘したレポート
水島:僕は割とJavaが好きなので、後者でも全然良いと思っています(笑)
ただ、技術アンテナを高く持ってラーニングしないと活躍の幅は狭まっていくでしょうね。JavaやPHPが書けるエンジニアはベトナムや中国、インドを中心に無数にいますから。
Javaを起点にRubyやGo、Scalaなど新しい技術に挑戦するのは大切だと思います。「まだStruts1でやっています」とか「Spring Frameworkもバージョンが古いです」とかは危機感を持ったほうが良い。
たなべ:なるほど。逆に言語にかかわらず必要とされるエンジニアになるには、何が必要なのでしょうか?
お二人とも採用も担当されていると思いますが、Java1本でも採用する人とそうではない人の違いはどの辺りですか?
高木:システム全体を設計できるか、細かい話だとN+1問題がちゃんと理解できているかとかですね。
結局、設計は要件に沿って行うものなので、今書ける言語よりも、「レイテンシーが重要なら、コンパイル言語でやらないといけないので、Rubyは適切ではない」といった判断が下せるかのほうが重要だと思っています。
水島:僕も同じ考えです!同じことを言われてしまって、ちょっと鳥肌が立ちました(笑)
僕がPdMなので、ポジショントークで付け加えると、どれだけ目的思考で動けているかですね。システムを作る理由や提供できる価値に興味がない人と、考えて試行錯誤をしている人では全然違う。
目的思考ができていれば単一言語であってもエンジニア出身の良いPdMになる可能性もあります。それこそ「開発」と「ビジネスやプロダクト思考」の掛け算ですよね。
上流と下流の境目はなくなる?開発チームの小規模化が進行
たなべ:ちょうどPdMの話が出たので、もう少し深掘りしたいです。単に「ドメインの知識」と「技術」の掛け合わせであれば、昔のSIerも同じだと思うんです。
今のサービス会社で、ビジネスと技術を掛け合わせて、PdMとして価値を発揮したい場合、どのようなスキルやマインドが求められるのでしょうか?
高木:僕の完全な私見なんですけど、スキルやドメイン知識は、必要条件ですが十分条件ではないと思います。PdMの一番大切なミッションは、製品を企画してリリースしてお客様へ届けるフローを効率よくすること。
そのために技術やエンジニアリング、マーケティングの知識が必要。でも、自分がやらなくても回るなら良いし、知識がゼロでもミッションを実現できるのであれば、僕はPdMとしてアリだと思います。
でも、現実的に考えると難しいので、知識が必要なだけ。一番大切なのはマインドだと思います。
水島:僕は、ちゃんと設計ができることの重要性が増していると思います。
10年前ぐらいのSIerはウォーターフォールだったので、上流の人がドメインに詳しければ、下流の人はドメインを知らなくても構わなかったんですよね。
けれど、上流の設計がきちんとされていないことが原因で、動かないシステムが出来上がってしまうケースあった。役割が分断されているせいで、適切に設計されていなくても誰も軌道修正ができなかったからです。
それを避けるために、技術とドメインの両方を理解している人が、しっかりと設計する必要がある。
とはいえ、最近は上流や下流という言葉に出会う機会は減りましたよね。行ったり来たりしているから、分けられないのだと思います。
高木:僕も、上流や下流といった概念はなくなっていくと思います。今日の冒頭、IaaSなどの登場によってインフラ構築や運用など、色んな仕事をソフトウェアで行えるようになったという話をしました。
それによって小さなチームであっても、大規模なサービスを運用できるようになったんです。チームのメンバーが少ないと、上流や下流といった分け方も不要になる。そうした変化がこの10年くらい起きたと思っていますし、今後も続くと思っています。
水島:そうですね。大企業であっても上流と下流を分けたやり方だと絶対通用しないと、気づいていくでしょうね。
昔は、「IBMのホストコンピューターをオープン系にリプレイスしましょう」と言っても、オペレーションも構造も変わらない、要件も黒画面からWebブラウザになっただけという案件が大企業には多かった。だから役割が分断していても、そこまで問題なかったんですよね。
けれど、最近はDXが進んでいくなかで、思い切って従来と異なるシステムを開発しようとする流れがある。そこで上流の設計がしっかりしていなかったり、上流と下流で情報が分断されて重大な課題に気づけなかったりすると、絶対にうまく回らない。
高木さんのおっしゃる通り、小さなチームが大企業のなかにできて、細かくPDCAを回しながら改善していくような開発が広がっていくと思っています。
最も価値発揮できるのは「喋っている時間の長いエンジニア」?
たなべ:そうなると、誰かが定義したモノを作るのではなくて、当事者として何を作ればいいのかを考える必要がありますよね。
具体的にエンジニアに求められるスキルなどは、どのように変わっていくのでしょうか?
高木:何かしらの分野において一流である重要性は増していくと思います。
例え話で恐縮ですが、ドラクエ3とかって勇者が主人公で、戦士や魔法使い、僧侶、武道家など、特別な能力を持つ人を選んでパーティを組みますよね。
同じように小さなチームで開発を進めていくとなると「この分野の一流の人がほしい」といった形で、仲間を集めるようになると思います。ドラクエのパーティを操っているのがPdMみたいな感じです。
たなべ:面白いですね(笑)水島さんはいかがですか?
水島:僕はコミュニケーション力と好奇心が重要になると思います。それがないとチームで浮いてしまうし、バリューも出せなくなってしまうからです。
昔のエンジニアは「いつも黒画面に向かっていて、コミュニケーションが取りにくい人」みたいなイメージだと思うんですけれど。今後はコードを書くより喋っている時間が長い人が、パフォーマンスを発揮する可能性が高い。
たなべ:多分エンジニアの多くは9割、いや10割の時間はコードを書いていたいと思うんです。
それでもコミュニケーションの時間が必要になるのは、小さなチームでの開発が広がっていくからでしょうか、それとも顧客を知るためのディスカッションが必要だから?
水島:両方あると思います。とくにBtoBだと、仕事の9割がディスカッション、1割がコーディングといったバランスでも良いくらいだと考えています。
仕様が決まっていないときに「仕様を決めてください」と突き返すのではなく、「目的や顧客の声を踏まえるとこうした方が良いと思いますが、どうですか?」と提案するとか。好奇心を持ってディスカッションをする力は、エンジニアであってもマストになるでしょうね。
大企業が“プチスタートアップ”をつくる流れが加速する
たなべ:ここまで企業の規模を問わずエンジニアに求められるスキルの変化を話してきました。
ここからはグローバル企業やメガベンチャー、スタートアップなど、企業ごとの求人ニーズについても話していきたいと思います。
高木さんはどのような変化があったと考えていますか?
高木:この10年だと全体的に未経験者をあまり採らなくなったように思います。かつてはDeNAやグリーが、富士通などのSIerから未経験者を引き抜いていましたが、メルカリなどはWeb業界にいる人を採っているなと。
水島:一時期は完全にSIerからスタートアップへの流れができていましたよね。僕もスタートアップが経験者を採用する傾向は感じています。
一方、今後は再びSlerからスタートアップへの転職が増える可能性もあるのではと思っています。あくまで僕の知っている範囲ですが、SIer業界はスタートアップのやり方や技術スタックから4、5年ぐらいは遅れていて、最近ようやく追いついてきたんですよね。
そうすると今後はSIerにいても、スタートアップと同じように開発を進めてきた人が出てくる。経験やスキルのギャップが埋まっていくと、転職のときにスタートアップを検討するSIer出身者も増えるのかなと思っています。
高木:そうですね。
もう一つのトレンドとして、大企業のなかに小さなチームをつくり、スタートアップのようにサービス開発をする流れもありますよね。そうすると、大企業がスタートアップ出身者を積極的に採用するようになるのかなと。
水島:大企業が“プチスタートアップ”を立ち上げるための求人は増えてますよね。
例えば、とある大手自動車会社は中目黒にオフィスを作って、メガベンチャー出身者を積極的に採用している。今後も大企業がスクラムやRubyでのアジャイル開発の経験者を探す可能性は高いですよね。
たなべ:そうなると、水島さんや高木さんのようにスタートアップで採用を担当している人は大変ですよね。
高木:そうですね。ただエンジニアでも職種によって採用の難度は違う印象です。比較的フロントエンドは採りやすく、サーバーサイドが非常に採りにくい。
たなべ:それはなぜでしょうか?
高木:フロントエンドとサーバーサイドで経験者のバランスにギャップがあるんですよね。
フロントエンドなら、Unityとかを使って、自分のPCでもある程度の開発経験を積めます。一方、サーバーサイドは、実際に会社に入ってサービスを運用してみないと、経験を積むのが難しい。最近はそれこそIaaSなどの登場で変わってきていますが、経験者のギャップはまだまだ大きいです。
今後、サーバーサイドかつサービスの開発経験のある人は、引く手数多だと思います。
たなべ:ありがとうございます。「経験が少ないと転職しづらいですね」で終わってしまうと、夢も希望もないセッションになってしまうので(笑)
サービス開発の経験が少なくても、メガベンチャーやスタートアップに転職したい場合、何から始めれば良いのでしょうか。高木さんいかがでしょう?
高木:自ら経験を増やすための行動が大切だと考えています。
そもそも、あらゆる会社は、何かしらのサービスを提供する組織体です。今いる会社でも、一切サービスに携わっていないはずはない。もし、「携わる機会がない」と感じるなら、サービス開発に近しい経験のできる領域に踏み込んでいけば良いと思います。
水島:僕も、今の会社でより魅力的な経験を磨けるポジションを探し、飛び込む努力はマストだと思います。僕自身も、IBMのときは一番技術力が高く、オープンな環境で働けるよう、周囲に伝え続けていました。
メガベンチャーやスタートアップに転職したいなら、外と接点を持てる部署に身を置く、クラウドやIaaSの導入をやっている部署に飛び込んでみるなど、打ち手は沢山あります。
たなべ:ただ言われたことをやるのではなく、自ら選択していく意識が大切なんですね。
水島:そうですね。幸いエンジニアは人手不足が続いていて、急に仕事がなくなることは恐らくない。なので過度に悲観する必要はないのかな、と。
一方、シリコンバレーでは、年収2000万円をもらっているエンジニアが当たり前のようにいるのも事実です。彼らはミッションへの意識や、社会へのインパクトの与え方も桁違いです。
もちろん、皆さん年収を上げたいだけではないと思いますが、彼らのように高いレベルを目指して働くのは非常に楽しいのではないかなと考えています。
高木:エンジニアという仕事自体は無くならなくても、形は変わっていくでしょうね。1、2年だと見えなくても、5、10年単位で振り返ると大きな変化が起きる。それをポジティブに捉えていけば、、キャリアを広げる糸口にもなるはずです。一緒に頑張っていきましょう。
たなべ:変化を楽しんでいけると良いですよね。ありがとうございました。
Vol.1 「エンジニアの成長機会は“良いヤツ”に集まる」DMM、ミクシィ、キャディ、Reproのエンジニアが語るキャリア資産の積み方
Vol.2 「言われたものをただ作る」は絶対にやらない文化。プレイド、エクサウィザーズ、ビザスク、サイバーエージェントが語る採用と開発の現場の本音
Vol.3 転職したい時ほど、まず目を向けるべきは「社内の選択肢」。ヤプリ、ラクスル、LINE GT、インフキュリオンデジタルの第一線エンジニアが語る、キャリアの歩み方